東アジア公共人類学懇談会

 東アジアを対象とする人類学的研究は東洋学の影響が強く、蛸壺式の地域研究に陥る傾向が強い。日本研究、韓国研究、
中国研究の間ですら共通のテーマや理論を基盤とする対話に乏しく、ましてや東アジア間の移動にともなう文化摩擦を人類学の理論と方法論をもって対象しようとする実践的研究は皆無に等しい。したがって、日本研究、韓国研究、中国研究に携わる各参加者がまずは理論的な認識を共有し、そのうえで東アジア各国/地域の事例を社会、文化的システムの観点から議論していく必要がある。

初年度
本懇談会の趣旨を確認し、主に2つの視点から理論的な基盤を共有する。
①異文化コミュニケーション論:異なる文化的背景をもつ者同士が引き起こす異文化摩擦の問題は、エドワール・ホールらにより高い注目度を集めてきた。しかし、異文化摩擦の問題は、国籍や地域に応じて各自の文化やパーソナリティを本質化してしまう側面をもっていたので、特にポストモダンの人類学の流行に伴い人類学の研究の対象外とされてしまった。しかしながら、だからといって異文化摩擦の問題が消滅したわけでなく、別の理論的枠組みからこの問題は再度重視されるべきである。こうした認識のもと、特に「空間」と「場」の概念を検討しなおすことで、人類学がいま文化摩擦の問題にいかに取り組むべきか研究会を設けて議論をおこなう。
②公共人類学:公共人類学は、ある一定の問題関心を学問内部だけでなく、「公共」、すなわち市民団体など外部にも開放して共に取り組もうとする分野である。ただし、公共人類学はそれまでの応用人類学とどのように違うのかその方法論が問われることがあり、方法としての公共人類学を本懇談会の問題関心といかに結び付けるかを議論しなければならない。
初年度は、この二つのテーマに絞り、研究会や読書会を通じて理論的な関心を共通することを主な目的とする。さらに、本懇談会は若手が中心であるので、具体的には東アジア人類学研究会と提携し、シンポジウムの形で外部の専門化を招いて討論をおこなう。同時に、参加者個人のフィールド経験に基づいた事例を集め、本懇談会の問題関心をさらに高める。

二年目、三年目
引き続き理論的な基盤を共有する努力を図る一方で、公共人類学の手法に基づき、市民団体の協力のもと、日本における「外国人」の流入に伴うトラブルや違和感に関する事例を収集する。また、韓国と中国における日本人のカルチャー・ショックにまつわる事例も収集する。
③関連する人類学的研究を紹介:本懇談会のテーマに関連する「移動の人類学」「観光人類学」「会社の人類学」「学校の
人類学」をめぐる研究会を東アジア人類学研究会との共同で開催し、理論的な関心、および各国の事例を検討する。
④日本のNGO団体との協力のもと、日本における「外国人」の流入によるトラブルや違和感について、異なった国籍の者を
集めて討論する。人類学を専攻する者は、その仲介者にまわるとともに、それが社会的、文化的システムの相違に起因する
ことを解説する。たとえば、「中国人観光客がトイレット・パーパーを流さない」という一見些細にみえるトラブルであっても、
その背後には中国の会社における人間関係のあり方など根深い差異があることを指摘し、理解と解決を促す。
⑤韓国や中国における「日本人」の流入に基づく、企業、大学、フィールド、日常生活のうえでのトラブルまたは対処法などを
議論する。参加者各自のフィールド経験に基づき、日本人が韓国や中国でどのような不適合あるいはトラブルを起こしがちで
あるのか議論し、その事例を記録する。また、参加者各自がフィールドワークを通して、その社会的、文化的要因を突き止める。
さらに、それを④にフィードバックする。

四年目
最終年として、以上の成果を学会発表、書籍出版などの形で整理する。
⑥三年間を通して集めた関連の事例、および経験をもとに、①と②の研究会を再び開催し、異文化コミュニケーション論およ
び公共人類学の理論、方法論に対して反省のメスを入れる。同時に、「公共人類学」をテーマとする分科会を日本文化人類
学会にて開催し、それまでの研究/調査成果を発表する。
⑦東アジア間の移動に伴うトラブル、違和感、和解、調整などにまつわる事例報告とその人類学的考察を記録し、一般向け
の書籍として刊行することを目標とする。特に「日常生活」「会社生活」「学校生活」「フィールド」の項目に分け、日常や大学
や会社のうえでの注意点を世間に促すだけでなく、人類学者自身の留学生活、フィールドにおける注意点も記す。
なお、本懇談会は、さしあたり日本と距離の近い東アジア諸国を中心としているが、他地域も視野に入れていく予定である。

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